トップページ | アクション100 | 013 モノづくりでつながる縁 BIN CHAIRプロジェクト②BIN CHAIR No.03

アクション100case.013

 

モノづくりでつながる縁

BIN CHAIRプロジェクト Vol.2
『BIN CHAIR No.03』

アクション100 case.012の続きとなる case.013では、ナルセノイエのモデルハウスを設計していただいた建築家 田中敏溥さんがつくられている「BIN CHAIR」の『No.03』という型を、我々の手でつくるプロジェクトについてご紹介します。


椅子をつくる

「様々な縁を繋いできた田中敏溥さん設計のモデルハウスに、同じく田中敏溥さん設計の椅子を置きたい。そこからまた新しいストーリーが広がっていくかもしれない」という私たちの想いに応えてくださったのは、名古屋市守山区のワックスタイルさん。社名からも窺い知れますが、「『ワクワクできる仕事』を大切にひとつずつ」取り組むことをモットーにしておられる会社で、このプロジェクトに「図面を見てとても難しそうだと思いましたが、できそうな予感はありましたし、何より、スキルアップのための良い経験になりそうだと思いました」と前向きに取り掛かったと話すのは、制作を担当していただいた服部公亮さん(以下、服部さん)。型が幾つかあるBIN CHAIRの中で、木材だけで構成されている「No.03」を制作することになりました。

帆布かばん

出来上がったBIN CHAIR No.03を囲むワックスタイルの服部さん(左)と当社の青山

服部さんは名古屋市工芸高校インテリア科のご出身で、ワックスタイルに入社して今年で3年目。学生時代にスツールを作成したことがあったものの、今回のような複雑なデザインの椅子を制作するのは初めてのこと。
 
「ワックスタイルでは主に箱型の造作家具を制作しており、椅子というジャンルは会社としてもはじめての挑戦でした。まずは設計図を読み解き、パターンを起こすところからはじめました」
 
まさにものづくりの原点に立ち返るような経験が始まります。

帆布かばん

田中さんによる家具図面を元に、制作の細かな打ち合わせを実施しました。


ものづくりを通じて共に技術を磨いていく

今回の椅子づくりはまず、同サイズのサンプルをつくるところからスタートしました。
細かなディテールまで描き込まれた図面ですが、やはり実際に組み立てないとわからない部分は多々あります。
例えば、座面の傾斜をつけるための脚の木組み接続部。機械は直角に切ることしかできないため、服部さんご自身で定規を作り、何度も木組みをしながら手で削って収めていきました。またこの椅子は釘などの接続金物を使っていないので、脚を組む際も、接続木部の細かな寸法調整が必要で、それは緩すぎても締まりすぎていてもいけません。そして、座面や背もたれのラウンド部分は、細かなヤスリで微調整をしながら整えていくという繊細な作業を重ねました。

miccaのロゴ
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ワックスタイル作業場の様子。比較的年齢層が若く、活気がある。大型の機械も揃えられ、対応力の広さも窺い知れます。

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制作の様子。途中経過を拝見しながら擦り合わせをするため、制作途中も何度か工場を訪れ、状況を共有。そこには、機械だけでなく、手間のかかる手作業も交えつつ、慎重かつ丁寧に作業を進められる服部さんの姿がありました。

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座面が背面に向かって緩やかに下がり、ゆったりと身体を受け止めてくれるようになっています。その勾配をつくり出すために、幾つかテストピースを作り最終的な収まりを決めています。

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帆布かばん

背もたれから肘掛けにかけての曲線や木組み、座面と脚との取り合い、意匠性を損なわずに強度を持たせる
ことが、一番慎重になったところ。写真下はサンプルで、背面側(写真左側)に向かって傾斜がかけられている。サンプルを完成させた後、実際の椅子の材料を刻んでいきます。

帆布かばん

「強度と意匠の兼ね合いが難しいですね」と服部さん。

このようにしてBIN CHAIR No.03は、合計で約10日間かけて作り上げられました。
 
「楽しく作ることができました。試行錯誤の末完成させることができたので良い経験になりましたし、自信に繋がりました」と笑顔で話す服部さんに、
 
「価値観の近い若い人と出会えて、協働作業をして、これからの経験に繋げてもらう機会になればと思っていたので、そう言ってもらえて嬉しい。関係するつくり手さんには一緒にスキルアップしてもらいたいですし、このような輪を広げていきたいですね」とスタッフの青山も笑みが溢れます。

miccaのロゴ
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帆布かばん

No.03の引き渡しの際、服部さんと青山とで記念撮影。

実は、田中敏溥さんはBIN CHAIRの制作をお知り合いの建具屋さんに依頼しています。既製品の建具が増える一方で、建具職人の仕事が少なくなってきた折、その技術を繋ぐために、またものづくりを続けてもらいたいという想いで依頼をされているそうです。そちらでも、このような共同作業をされているのだろうと想像します。


田中敏溥さんの「椅子展」へ

2024年9月24日〜10月5日に東京の銀座にある「ギャラリーせいほう」さんで、BIN CHAIRを中心とした 「建築家 田中敏溥の椅子展」が開催されました。そこで出来上がった我々のBIN CHAIR No.03と共にその個展にお邪魔し、田中敏溥さんに椅子の完成をご報告しました。

帆布かばん

制作したNo.03に腰掛ける田中さん

miccaのロゴ
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会場には、個展のために制作されたNo.03もあり、私たちが制作したものと比べてみました。右側が私たちの制作したNo.03です。比べてじっくりと観察しないとわからないのですが、材料や仕上げがわずかに違います。なんだか兄弟に会えたようで嬉しい。

会場では、新旧様々なBIN CHAIRが図面と共に展示されており、全て実際に腰掛けることができました。今回のために用意された新作も多く、BIN CHAIRが一堂に揃う貴重な機会でした。またそれぞれの原図面を間近に拝見することができ、細やかな書き込みに田中さんのお人柄を感じることができたのも、展示会ならではの体験。

miccaのロゴ
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細かな寸法やディテールの書き込みと共に、「エッジを丸くしたい!」「約20Φの穴をたくさん開ける!」といった希望や、「よい方法を教えてください」という投げかけも書き込まれている原図面

miccaのロゴ
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実際の完成品に触れて腰掛けて味わう機会ならではの記憶が残りました。

帆布かばん
帆布かばん

途切れることなく訪れる来場者の方々を丁寧にもてなされる田中さん

来場者層は老若男女、多岐に渡たり、若い方が熱心に田中さんにお話を聞いていたり、ご夫婦でいらして椅子の座り心地を味わっていたり、田中さんを古くから知っておられそうなご友人や業界関係者の方も訪れていたりと、私たちの滞在中も訪れる方の足が止まることはありませんでした。田中敏溥さんがこれまで広く深く関係性を築かれ、多くの方に影響を与えてこられたことを窺い知ることができました。

帆布かばんを縫う

記念撮影にも応じていただき、ありがとうございました!

田中敏溥さんが設計された大切なナルセノイエのモデルハウスと椅子を通じて、田中さんがつくってこられたように、私たちも多くの出会いと時間を育みたいと改めて感じる時間でした。

帆布かばんを縫う

BIN CHAIR No.03はナルセノイエのモデルハウスで実際にご覧いただけます。建物と共に、田中敏溥さんのつくる世界をお楽しみいただければ幸いです。

(文・制作途中以外の写真:松尾 絵美子)

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