暮らしの風景

Vol.12

Base Home of Life

住宅地の一角に雑木林に包まれたような木の家があります。竣工時に数本の高木を植えたお庭には、ホームセンターなどで買った苗木を植え、土を耕して家庭菜園をつくり、手作りの木の遊具や鶏小屋を備え、11年の時を経てすっかり住まい手のO様色になりました。思い描いた暮らしの実現に向けて、日々アップデートされているO様の暮らしの現在地を拝見しに伺いました。

 
旬を育て味わう暮らし
 


イギリス出身のハーブ研究家ベニシア・スタンリー・スミスさんのつくるお庭や暮らしの世界観がお好きで、彼女の書籍やTV番組もよくご覧になっていたO様は
 
「季節ごとの草花や果実が、暮らしの一部になるようなお庭がつくりたい」
 
と、多種多様な植物を植え、手入れをされてきました。ラズベリー、ブルーベリー、ジューンベリー、梅、枇杷、ぐみ、栗、胡桃、オリーブといった果樹から、ローズマリー、タイム、ローリエなどのハーブ類まで揃い、家庭菜園では季節の野菜が育ちます。食に関するお仕事をされている奥様は、それらを収穫して、そのまま食したり、ジャムやお菓子、お料理に使ったり、保存食に加工したりと余すところなく活用。お子様やご主人も実りの季節を知っていて、収穫を楽しみにされているといいます。

取材で訪れたのは5月下旬。左上:ジューンベリー、右上:梅、左下:枇杷(鳥に食べられないように袋を被せている)、右下:ぐみ、といった果樹たちの実りの季節でした。

手入れの行き届いた家庭菜園、お庭には薪棚もある。薪割りはご主人の仕事。近所の方や知人が角材や剪定の際に出た木材を提供してくれるそうで、薪の調達には困らないという。

写真左:自然落下した青梅を見せていただいた。梅の良い香りが漂う。
写真右:瓶詰めは、昨年漬けた南高梅の梅干し。たくさん加工しても、だいたい1年で無くなるという。カウンターに添えられたオリーブの枝も、お庭で採れたもの。

ベニシアさんを感じる、手入れの行き届いたナチュラルなお庭。

 
お庭にはご主人が作ったウッドデッキや遊具、薪棚や鶏小屋もあります。
 
「自分たちで庭を作りたくて、竣工時からコツコツ作り上げてきました。バーベキューや、隣の神社からいただいた竹を加工して流しそうめんを楽しんだこともあります。」
 
と楽しそうに思い出の写真を見せてくださるご主人。普段お仕事でお休みが取りづらいご主人ですが、隙間時間や年末年始など、タイミングを図って庭仕事や家仕事に勤しむのだと言います。お庭には、現在、高校生・中学生・小学生になった3人のお子様とご夫婦の思い出が刻まれています。

滑り台やシーソーのある公園のようなお庭。夏に向けてゴーヤやヘチマの緑のカーテンを育てているところでした。

毎日1時間ほどお庭で遊ばせている鶏は卵を届けてくれる家族の一員。土のあるところにしか行かないため、敷地外に出ることはなく、時間になると小屋に戻ってくるのだとか。鶏小屋はご主人のお手製。

リビングにある、開口部と一体化したデザインのベンチに腰掛けるご主人。夏はひんやり、冬は木肌が優しいこの場所でゴロゴロしながらお庭を眺めるときが至福のとき。忙しい日々での貴重な休息のひとときです。

 
スローライフと「男の間」
 

以前から愛用しているYチェアや木の丸テーブルは、すっかり飴色に。丁寧に並べられた調理器具や籠たちからも丁寧な暮らしぶりが窺える。

 
「電化製品にあまり頼らないスローライフをしたいと願っていましたが、家族それぞれの生活もあるので、ストイックにはなりすぎず、現代の便利さと折り合いをつけながら暮らすことも大切だと思っています」
 
そう話すO様は、パッシブデザインを用い、調湿効果や空気清浄効果もある自然素材を使った木の家を求めました。1Fの家族が集うLDKには薪ストーブがあり、経年変化を楽しむ木製家具や骨董家具、お気に入りの雑貨が暮らしを彩ります。あまり電化製品に頼らずに古来の調理道具を愛用し、土鍋でお米を炊き、照明も明るすぎず、テレビなどの娯楽家電もありません。

お子様の成長を記録した支柱が見守る2Fの「男の間」

 
一方で、2Fにある、通称「男の間」にはテレビやパソコンがあり、棚には様々な本や記念品、思い出の品が並びます。「男の間」は、ご主人のパーソナルスペースとして計画当初から盛り込まれていましたが、個室ではなく開かれた空間にあるため、お子様たちも自由に使っており、ここでテレビを見たり、電子デバイスに触れるのだそう。
 
「男の間」の傍らで家族を見守る枝つきの柱は、木材屋に出向き、O様とナルセノイエスタッフとで吟味して選んだ逸品。「子供たちが登れるよう、枝付きの柱が欲しかった」と言い、枝の向きやバランスにこだわって選び、スタッフが大工と一緒に運び入れて据え付けました。スタッフにとっても、O様にとっても思い出深い枝柱には、お子様の成長が刻まれています。

オープンスペースだが、廊下から階段2段分上がっているので、独立した空間として認識できる「男の間」。枝柱は桧材。

男の間の脇にはパソコンスペースがあり、トイレと洗面も備わっている便利空間。野球に関するお仕事をされているご主人の記念品などがきちんと並べられている。

プランニングの段階で変遷を遂げた「男の間」について、当時を思い出しながら皆で談笑
(現在の間取りとは異なります)

 
ゆるりと過ごしていく
 

竣工当時は未就学児だった一番上のお子様が、今は高校生になりました。家族の距離感はお子様の成長とともに変わっていきます。
 
「ダイニングで家族揃って食事をとりますが、上の子は食事が済めば自室に行き、音楽を聴いたりして好きなように過ごしているようです。でも個室が吹き抜けに面しているので家族の会話は聞こえていて、呼びかければ顔を出してくれますし、時折会話に参加してきます。それと、リビングでお風呂上りに子供たちとボードゲームやカードゲームをするのですが、カードゲームをする時はたいてい上の子も参加しています」と微笑むご主人。
 
「どこにいても家族の気配を感じる家」が希望だったO様。
それぞれの暮らしのリズムにあわせて、心地よい距離感を保ちつつ、これからもアップデートされていく暮らしぶりが楽しみです。

O様、暮らしの現在地を見せていただき、ありがとうございました。

(写真・文:松尾 絵美子)

 


         
   O様邸DATA
   建築年 :2014年
   取材年 :2025年
   家族構成:ご夫婦+お子様3名※取材時