暮らしの風景

Vol.9

思い出を紡ぐ家

比較的交通量が多く、人の往来も多い道路に面して建つO様邸は、通りから一歩敷地に入りアプローチを進むと雰囲気が一変。まるで木漏れ日が降り注ぐ公園のよう。室内に入ると、LDKから外へ繋がるウッドデッキ、そしてその先に広がる里山の風景が飛び込んできます。建物の完成から12年。当時は小さかったお子様も大きくなりました。穏やかな冬のある日、そして花々が咲き乱れる春の頃、O様の木の家暮らしを拝見しに伺いました。


楽しかった家づくり

転勤先の東北地方から戻り、土地探しからスタートしたO様の家づくり。
ナルセノイエとの出会いはご実家で見た新聞広告。好みの雰囲気だったことから見学会に足をお運びになり、ご縁が繋がりました。

それから、4~5年間の土地探しを一緒に行ない出会ったこの土地は、住宅地の一角にありながら、目の前に田畑と桜並木が続く里山の風景が広がる場所。
緑豊かな田舎暮らしを希望していたO様の家づくりが、この場所で始まりました。

通りに面した高低差のある敷地に建つO様邸(写真左上)と2F吹き抜けから見る里山の風景(写真上)、お気に入りのキャットウォークで談笑するO様ご家族(写真下)

家づくりの思い出話を伺うと、「懐かしいですね〜。楽しかったです」とご夫婦共に何度も口にされるほど、O様の家づくりは印象深いものでした。

お子様たちが寝静まった頃から始まり、夕食をご一緒しながらのプランの打合せ。着工してからはご家族で頻繁に現場に通ったと言います。
お子様二人も現場監督や職人に懐いており、子供部屋の漆喰を一緒に塗ったり、手形を残したりと積極的に職人と触れ合ったそう。
完成が近づくと、出来上がったキャットウォークに寝転んでみたり、夜中にも外から進捗を見たりもしたと笑います。

「一生懸命建ててくれるのが嬉しいし、一緒に家づくりができるのが楽しくて」

と懐かしむご夫婦。当時小さかったお子様も、「木の骨組みや、香りをなんとなく覚えています」と振り返ります。

一区切りであるお引き渡しの時、滅多に泣かないという現場監督をはじめ、関わった職人やスタッフが涙したというエピソードからも、O様の家づくりを皆が楽しんでいたことがわかります。

熱い想いを寄せ、積極的に関わった家づくり。リビングの一角には、折々の家族写真と共に、お引き渡し時の写真が飾られていました。

リビングに飾られている、お引き渡しの時の写真をはじめとするご家族の思い出写真。

暖炉を中心とした階段をのぼると、かまぼこ型の入口が目に入る。ここは、唯一の男性であるご主人の「男の間」なのだとか。上部が空いている、ちょっとしたお籠もり空間になっている(写真上)。「男の間」の入口横の壁を見ると、建築時に押されたご家族の手形が目に入る。当時小さかったお子様はすっかり大人の手になった。(写真下)

 
穏やかな家族時間を紡ぐ場所
 

当時は7歳と4歳だった娘さんは、現在19歳と16歳(取材時)で、それぞれ個室もあるのですが、そこに留まらずにリビングで過ごすことが多いのだそう。
薪ストーブのある空間を見渡せる形でキッチンがあり、ダイニング、そしてこたつ(冬のみ)のあるリビングが並列しています。
料理やお菓子を作ったり、食事をしてお酒を飲んだり、今日あったことなどを話したり、愛猫と戯れたり、階段でスマホ時間を楽しんだり、家族皆が好きなところで各々の時間を過ごすのだそうです。

家族団欒の中心地であるLDK。冬は日差しがたっぷりと差し込み、明るく穏やかな雰囲気。暖炉の炎がさらに暖かな雰囲気を添えている。奥の引き戸横にあるゲージは、愛猫のもの。

次女さんは階段がお気に入りの場所で、ここに腰掛けて家族と話したり、スマホ時間を楽しむことが多いそう(写真左上)。次女さんはお菓子作りが好きで、クリスマスケーキを焼いたりもするのだとか。お母さんと料理を楽しむこともしばしば(写真右上)。暖炉の管理はご主人が主だが、ご不在の時は奥様や長女さんが管理している。薪ストーブを点けると、これ一台で家中が暖かくなり、お昼間は暑いくらいだと笑う(写真左下)。そんな様子をゆったりと見守る愛猫(写真右下)

家族の暮らしの中心にあるLDKから続くようにウッドデッキがあり、その先にある里山の風景に繋がる大開口も特徴的。
高低差を活かしたウッドデッキのデザインと植栽で、通りからの視線をカットできるので、伸び伸びと景色を占有できる贅沢な空間です。


桜並木を眺めながらウッドデッキでお花見をしたり、七輪を持ち出してバーベキューをしたり、日差しが暖かい時はゴロゴロと日向ぼっこをしたりと、ご家族の大好きな第二のリビングになりました。

桜の季節。引き込みサッシを全開にすると、外までリビングが広がる。奥には桜並木が続き、お花見をしながら家族団欒をするのが一年の楽しみのひとつ。冬場の写真とほぼ同時刻ですが、随分と日差しの入りが違うのは、太陽高度と軒の出のおかげ。暑い季節は昼間に日差しが入らないように計算されている。

 
自然が織りなす日々の景色を味わう
 

ご夫婦共に緑豊かな地域のご出身なので、お住まいも”緑豊かな里山”がよかったそうで、高低差を活かした雑木林のようなアプローチやお庭もO様邸の特徴のひとつ。
駐車場が西側にあるのに対して玄関は東側にあり、その間に続くスロープを歩くと、まるで森の中を歩いている感覚になります。
薪棚があったり、足元にはお気に入りの小物やお子様の作品などが置かれていて、木々や草花が季節を伝えてくれます。

「桜の季節が終わるとジュンベリーが咲くんですよ。ジュンベリーの実を収穫する頃になると、石畳に糞が落ちていて、上を見るとあぁ、毛虫がいるなって気づいたり笑」
と楽しそうに話してくれる次女さんが、庭木の種類に詳しいので話を聞くと、建物が竣工した後に始まった庭づくりで当時幼稚園生で帰りが早かった彼女は、庭師さんに色々と教えてもらったそうで、それを今でも覚えているのだと言います。

木立を抜けるアプローチは、車や人通りが比較的多い道路とのバッファーにもなっている。

日差しが降り注ぎ、木立の陰影が美しい冬のアプローチ(写真左上)。高低差を生かしてウッドデッキを舞台のように作り、その下は薪棚に(写真右上)。足元を見ると、小鳥の置物や、お子様が小学校の頃に作ったというお魚の作品が迎えてくれる(写真下)

春のアプローチは賑やかだ。スズランやアセビなど様々な草花が足元を彩り、上を見上げればジューンベリーの芽吹きが眩しい。

 
今も家族の中で生きる思い出
 

サンキャッチャーが届ける光が綺麗な冬の昼下がり。太陽高度の低い季節は奥まで光が差し込み、美しい陰影が見られます。

「座ってみたり、寝転がってみたり、キャットウォークの模様がどんな感じかな、とか、色々楽しめるんですよ」

ここには、ご夫婦の原風景があります。

「実家が昔ながらの日本家屋で、柱や梁があらわしになっていて、続く畳の間でくつろぐと、深い軒越しに緑が広がる家で育ちました。
この家も同じように軒越しの緑が綺麗で落ち着きます。
壁や床も自然素材が良くて、それが標準装備であったのも嬉しかったですね。
竣工当時は全体的に白っぽかったですが、月日が流れて、床も柱もだいぶ味わいが出て落ち着いてきました。
カラマツの床はすごく気持ちいいし、漆喰の壁は匂いもなくて、この家で過ごす時間がとても心地よいです。」とご主人。

日差しを届ける窓に付けられたサンキャッチャーを通した光が吹き抜けを巡る(写真上)
冬は奥まで届く光の陰影が美しい(写真左中)。竣工当時は白っぽかった木部はすっかり飴色に(写真右中、左下)。足触りの良いカラマツの床もすっかり落ち着いた色になった(写真右下)

家づくりを家族全員で楽しんだことにより、お子様の心にも思い出が残り、ご夫婦の原風景はお子様の原風景にもなっています。
心の中で生き続け、繋がる思い出が、この家での時間をさらに豊かにしていることは間違いありません。

ご家族全員がリビングでお話してくださりましたが、笑いの絶えない穏やかな時間の流れに、家づくりから現在に至るまで紡いだ思い出を感じることができました。
何より、ご夫婦だけでなく、お年頃の娘さんもこの家での時間を愛してくださっているのが嬉しく、12年前の竣工時に関係者が涙したのも容易に想像できるひとときでした。

O様、暮らしを見せていただき、ありがとうございました。

(⽂・写真:松尾 絵美⼦)

   O様邸


         
   建築年   2013年
   取材年   2025年(取材時築12年経過)
   所在地   愛知県岡崎市
   住まい構成 ご夫婦+お子様2人(取材時)