アクション100case.006
市民の拠りどころとなる場所をつくる
NPO法人 安城まちの学校
アクション100case.006は、
愛知県安城市で、身体や心に障がいのあるお子様に向けての放課後デイサービス「まちの学校」や、地域の子どもたちの自然学習の場「森の学校」等を企画・運営されている「NPO法人 安城まちの学校」をご紹介します。
市民が身近な自然を楽しむ
「森の学校」
「森の学校」とは、
‟子どもたちに身近な地域の森に親しみ、様々な経験をしてほしい”
という想いのもと、地域の企業や大学、団体、市民の方々が講師を務め、フィールドワークや、ものづくりワークショップを楽しめるイベント。
安城市内の公園で年に一度開催されています。
(主催:NPO法人 安城まちの学校)
ナルセコーポレーションでは、2021年よりブースを出展しており、木端を使ったものづくりワークショップをご提供しています。

安城市内の公園にて開催。多くの子どもたちとその親御さんで賑わう。

ナルセコーポレーションのブース「木材でなにができるかな」。
端材を自分たちで選び、好きなものをつくる。




釘や金槌、のこぎりがある家庭は少ない。道具を使い自由に創作する機会はとても貴重で、大人になってからも生きる経験がたくさんある。


本格的な椅子や棚をつくる子もいれば、自由に木材を繋げていく子もいる。自らの手で作り出したことに満足げで、生き生きとした表情が印象的。親御さんの方が一生懸命になっている一幕も。
ナルセコーポレーションのブースでは、釘や鋸やボンド等を使って(道具の使い方も指導します!)木の端材でものづくりをしますが、その他では、木登りをしたり、木のブランコに乗ったり、木の実や植物を使った装飾や小物づくりを楽しんだり、自然観察や植物採集をしたりと、各ブース共に趣向を凝らしたイベントを用意しています。
9:30〜12:30の3時間、身近な森の中で、おとなも子どももめいいっぱい遊ぶのが「森の学校」。こちらを企画運営しているのが「NPO法人 安城まちの学校」です。
今回はNPO法人を立ち上げる前から今日まで、
第一線で企画運営をされてきた、理事であり事務局長である、古濱利枝子(ふるはま りえこ)さんに、
これまでの団体の歴史や日頃の活動についてお話を伺いました。
はじまりは「地域こども教室」
文部科学省による「地域子ども教室推進事業※」(H16.4~H19.3実施)が始まります。
※地域こども教室推進事業=子どもたちに関わる重大事件の続発など、青少年の問題行動の深刻化や地域や家庭の教育力の低下等の緊急的課題に対応し、未来の日本を創る心豊かでたくましい子どもを社会全体で育むため、地域の大人の協力を得て、学校等を活用し、緊急かつ計画的に子どもたちの活動拠点(居場所)を確保し、放課後や週末等における様々な体験活動や地域住民との交流活動等を支援するもの。
安城市でも、小学生を対象とした「まちの学校」が始まりました。
その運営を担っていたのが、現「NPO法人 安城まちの学校」の理事・事務局長の古濱さんです。

安城市の「まちの学校」の運営から、現在の「NPO法人 安城まちの学校」の立上げ・運営まで、17年以上、第一線で活躍してきた古濱さん。
時は2004年。
ゆとり教育が推奨された時代であり、核家族化が進み、幅広い世代との交流や地域との繋がりが希薄になってきた時代でもあります。
「まちの学校」では、市民講師による子どもの体験教室をメインカリキュラムとして持ち、家庭の延長のような場所で家庭ではできない体験や交流を深めていきました。
2004年からスタートした「推進事業への文部科学省からの助成」は2007年に終了。
助成は終わりましたが、それを機に
”この活動を終えるのはもったいない”と、
安城市周辺地域の企業30社より賛助が集まりました。
同時に古濱さんは、社会福祉協議会のボランティア助成金の獲得に成功し、それらを基にして民間団体「安城まちの学校」として活動を継続していくこととなります。
川の学校や森の学校、畑仕事を体験したり、体操教室をしたり、プログラムは徐々に増えていきました。
一日100人くらいの子どもたちが来ていたこともあったそうです。
参加費は数百円。
それぞれのプログラムは、市民が講師となり子どもたちに教えていたので、これまで触れ合う機会の少なかった市民同士の世代を超えた交流にも繋がり、子どもだけでなく現役を引退されたシニア世代にとっても楽しめる場所となっていきました。


季節に合わせたものも多く、ハンドベルづくりやしめ縄づくりもある。
カリキュラムは難しいものではなく、身近にある道具や素材を使い、体を動かしながら、手軽に楽しめるもの。
いずれも市民講師が得意分野を生かしてレクチャーしたり、本などで情報を集めて参加者と一緒になって楽しんだりする。このスタイルは、今も変わらない。
社会の変化に合わせて
2010年に、「安城まちの学校」は特定非営利活動法人(NPO)の認証を受けました。
同年、障がいのある子どもたちが放課後に集まり絵を描くなどするアートスペース「あとりえクレッシェンド」をスタート。
また「にじの会」を開催し、社会に溶け込めない青年たちと一緒に畑仕事をするカリキュラムも実施。
いずれも、家庭とは違う社会との繋がりを持つ機会を生むものでした。
そして現在は、
障がいのある子どもたちの放課後デイサービスをメイン事業としながら、地元企業と協力した単発イベントの実施や、マルシェでの子どもたちの遊び場の運営、安城学園での土曜講座や幼稚園の園開放事業、町内会の福祉委員会のサポートなど、多岐に渡る活動を精力的にこなしておられます。






障がいのある子どもたちの所属する「あとりえクレッシェンド」で描いた作品は、アトリエ内に飾られるだけでなく、展示会を開催したり、企業へ貸し出しをしたりもする。
「自分たちが描いた絵が飾られるって嬉しいものよ。子どもたちの自信に繋がっています。」と古濱さんは言う。

放課後デイサービスが行われる場所は、安城まちの学校の事務所のあるMCスクエアビル1F。
ここで絵を描いたり、書道をしたり、体操教室をしたり、様々なカリキュラムが実施されている。
使われている床材や家具備品は賛助会員である企業からの厚意で、一つ一つに思い入れがある。
「安城まちの学校」が発足した当時には、ゆとり教育下で学校の授業時間が減り、子どもが学校以外で過ごす時間が増えた一方で、共働きの核家族が多く、子どもたちの居場所を考える必要がありました。
しかし今は、子どもの習い事に時間を費やすことが多くなり、同時にそのような場での家族ぐるみでの付き合いも増え、子どもたちの居場所や地域との繋がり方が変わったと古濱さんは言います。
そうした子育てを取り巻く社会の変化を受けて、現在は、障がいのある子どもたちに向けた放課後デイサービスをメイン事業にシフト。
また、昨年は町内会の福祉委員会のサポートを8町内会担当していましたが、徐々に外部のサポートなしで運営できるように各町内会が成長してきているため、今年は2町内会を担当し、来年は請け負わない予定だそう。
社会情勢や環境の変化と、十数年経験を積み上げる中でプログラムや関係者も成熟し、「安城まちの学校」は変革の時を迎えています。
地域活性のために続けていく
社会の変化と共に柔軟に形を変えながら20年近く成長している「安城まちの学校」ですが、地域で過ごす住民が取り残されないように目を配り、仕組みをつくり、一貫して市民の拠り所となり続けています。
市民が繋がりを持ち続け、それぞれが影響し合いながら、顔の見えるネットワークを構築し続けられれば、孤独死も避けられるし、街全体が温かな活に包まれ、安心して過ごせる場所になります。
二世代、三世代で住まうことが昔に比べて圧倒的に少なくなった今、街全体が家族のような繋がりを持つ新しい形が見えてきます。
ほぼ古濱さんおひとりで暗中模索の中立ち上げられた「安城まちの学校」は、今、2人のスタッフを抱え、コロナ禍の厳しい中でも今なお30社以上の企業から支援をうけ、社会が、そして街が育っています。
20年近く第一線で続けてきたからこそ、その流れは顕著に感じるという古濱さん。
「その広がりに携われていることが喜びですし、やりがいです。
今は成熟の時です。これまでのことを基に、必要なものを精査して残していこうとしています。」
またこの活動を継続していくためには、しっかりとした事業計画をもとに福祉サービスという仕事を根幹に据えながら運営していく必要がある、と古濱さんは言います。
健全な経営のもとで、マンパワーだけでなく、組織として強くならなければ、続けていくことはできないし、続けていくことができなければ、街の成長に寄与できません。
「団体名に”安城”をつけ、安城市で活動を続けている以上、安城市民や企業に応援してもらい、還元していきたいです
。この地域でどう生き残るか、何ができるのか、常に考え続けています。」
古濱さんのエネルギッシュな言動の奥に、強い意志を感じずにはいられませんでした。

ナルセコーポレーション代表取締役の成瀬日出登(左)と、三輪(右)と、安城まちの学校の事務局長古濱さん(中央)
地域の拠り所となり、地域を強くしていきたいという想いを共有しながら、ナルセコーポレーションも賛助会員として、また同じ地域を支える者同士として、これからも協力していきたいと思います。
《取材後記》
ナルセコーポレーション本社西側事務所に掲げている100周年記念看板には、あとりえクレッシェンド参加者の まおさんが描いた作品「春風」を採用しています。
通りからもよく見えますので、ぜひご覧ください。

まおさんが描いた絵を採用した100周年記念看板

新聞に掲載され、ご紹介していただきました。