トップページ | アクション100 | 016 イラスト・漫画作家「しみず りえ」

アクション100case.016

 

イラスト・漫画作家
『しみず りえ』

アクション100 case.016は、豊田市のご自宅で絵画・イラスト教室を営みながら、イラスト・まんが作家として活躍されている「しみず りえ」さんをご紹介します。


描きたいものを表現する

帆布かばん

ナルセノイエのモデルハウスで個展やワークショップを開き大変好評をいただいている、イラスト・まんが作家 しみずりえさん(以下、しみずさん)の制作拠点は、豊田市のご自宅にあります。お仕事を進める中で ”絵画を教えてほしい” という依頼があり、「資格取得や受験用ではなく、趣味で楽しむ程度なら教えられそう」と10年ほど前からご自宅の一室で絵画教室を始めました。
 
教室を始めた当初は、デッサンや写生、ポスターなどの絵画をメインに教えていましたが、
まんがやイラストを描きたいというリクエストが増えてきて、今は「絵画教室」でありつつ「イラスト・まんが教室」でもあるのだそう。この一節からもわかるように、しみずさんの教室は、形式や枠組みに囚われることなく、生徒さんが「描きたいもの」に合わせてテクニックを教えていくところが大きな特徴です。
 

帆布かばん

しみずさん(写真右)の教室の一幕。和室の大きな座卓を囲んで絵を描く。生徒さん役を娘さん(写真左)にお願いして教室の様子を再現していただきました。

授業のように一方的に教えるのではなく、基本的に生徒さんと1対1で、対話をしながら進めていきます。
 
「今日は何を描きたい?」から教室はスタート。
 
モチーフは自由で、技法や形式も自由。
例えば、好きなアニメのキャラクターを描きたい生徒さんがいると、その作家さんの癖を分析し、似せるポイントを伝えながら描いてみる。特徴をつかむと、ぐっと似せられるようになるので、そのキャラクターの様々なシーンを描けるようになります。具体的なモチーフのリクエストがなくても、描きたいもののイメージを伝えると、その描き方や表現方法の具体的なアドバイスを受けて絵を描き進め、学校の先生や同級生に披露して喜んでもらえたり褒められたりしたと嬉しそうに報告してくれる生徒さんも多いのだそう。
 
描くものが自由なことに加えて大きな特徴なのが、生徒さんの描きたいもののイメージを共有して、しみずさんも一緒に筆を進め、絵を描くということ。
 
例えば、下の写真にある ”青空が広がる草原の油絵” の制作過程は次の通り。

帆布かばん

生徒「空は青空で、草原に木がある風景を描きたい」
先生「空には雲を描く?どんな雲を描こうか、モクモクした感じ?草原はどれくらいの分量にしようか。木は1本ポツンと描く?それとも森にする?」
 
油絵は奥から順に色を重ねていくのがセオリー。まず最初に青空を塗る。実際は草原や森の下にも青色は塗られています。次に草原を描き、木々を描いたところで先生の提案。
 
先生「少し寂しいから、草原にお花を描こう。どんなお花にしようか?最後に人物も描いてみようか。」
 
このような手順で完成した油絵ですが、写真はしみずさんが描いたもの。
実際には同時に描かれた生徒さんの作品があり、それは雲がもっとふわふわしていて、同じテーマで描いているけれども違う作品が出来上がったのだそう。こちらの作品は、2時間で描き上げました。
 
生徒さんは、同時制作しているしみずさんの手元やアドバイスから、画材の使い方、構図、表現方法、色を置く順番、色合いなどを学んでいきます。
 
「本格的な絵画教室で習うことはもっと複雑ですが、ここでは、生徒さんが描きたいものを思うように表現できたという喜びを積み重ねていくことを大事にしています」と話すしみずさんは、生徒さんの描きたいもののイメージを引き出して共有し、細やかに同意を得ながら具現化していきます。
 
次の作品は、中学2年生の生徒さんと一緒に描いた油絵です。

左写真:生徒さんの作品 写真:しみずさんの作品

 
「レースを纏っているクジラが泳いでいる様子を下から見ていて、周りには花が散っている」というイメージを共有しながら描いたものですが、出来上がった作品は、それぞれにしっかりと個性を持っています。
 
「生徒さんが描いた絵は、私が思いつかないもので、すごいなぁと思いましたね」としみずさん。
 
教室は1回1時間で、1週間に1回、月に3回通うことができます。上記のクジラの作品は、8週分を費やして描かれました。生徒さんの性格から、設計図を描いて構図を決め、下絵を描いたのちに本着彩をしていく流れで進めたそうです。それらの下準備なしで取り掛かる場合もあり、生徒さんや作品に応じて細やかに変えているのもしみずさんらしさです。

帆布かばん

しみずさんが高校生の頃に建てられたご実家は、丁寧に手入れがされている和風住宅で、訪ねてくる生徒さんからは「おばあちゃんの家に遊びに来ているみたい」と好評。黒猫の「おこげ」もお迎えしてくれる。和室の一角にある油絵は娘さんの作品で、図書館でのワンシーンを描いたものだという。

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小さな頃から絵を描く環境が身近だった娘さんの画力は相当なもの。スラスラとオリジナルキャラクターを描き進める横で、その様子をスケッチするしみずさん。「最近はなかなか写真を撮らせてくれないので、このスケッチが今日の記念になりました」と微笑む。

「かわいいな、綺麗だなと心動かされたものを表現して残してもらいたいですし、その手助けとなるように、そしてさらに楽しく絵を描けるようにアドバイスしていきたいと思います。言われるがままに描いていくのはつまらない。やりたいことを楽しんでほしいし、やりたいことは何かを考える機会にもしたいです」
 
主体性を大切にしながら、ゆるやかに進むしみずさんの教室には、小学生から高校生まで幅広い年齢層の生徒さんが足を運び、長年通うかたが多い。本格的な絵画作品に取り掛かったり、学校の課題を進めたり復習をしたり、旅行のしおりを制作したり黒板絵を練習したりと、1時間の使い方も多種多様。黙々と制作を進める生徒さんもいれば、学校での出来事や今考えていることなど、他愛もない話から、ご家族には話しづらいことを話してくれる方もいるそうで、そういうコミュニケーションも大切にしたいとしみずさんは言います。


漫画家としての経験

帆布かばん

しみずさんは、プロの漫画家の経歴をお持ちです。
小さい頃から絵が好きで得意であったため、ラジオ体操のスタンプカードを自作したり、旅行先で絵を描いたり、お友達の誕生日カードをつくったりして、喜ばれたり褒められたり頼られた経験が根底にあります。そして絵やイラストを描く際に、細かく観察したり研究したりしたことが、今の観察・分析眼に繋がっています。
 
ひとつの物事に熱中しやすい性分だというしみずさんは、ある日親御さんから買ってもらった漫画を読み、その世界に没入しました。得意の観察・分析眼で漫画を習得し、1995年に応募した漫画で受賞したことをきっかけに、漫画家としてデビュー。当時はまだインターネットやデジタル機器の普及が進んでおらず編集部との物理的な距離が大変ではありましたが、ご家族の介護があったため豊田市のご実家で作品を制作し、編集部とのコミュニケーションを図りながら、漫画雑誌の月刊誌や増刊号への掲載を中心に、約13年間作品を発表しました。
 
手元に残る、漫画家時代の原稿を拝見しながら、まんがができるまでの手順を教えていただきました。
帆布かばん

写真中左:キャラクターデザイン 写真中右:原案(文章)
写真下左右:原稿。吹き出しには手書きや印刷の切り貼りがされている
何段階かに分けて編集会議があり、それぞれ認可を得ないとその時点で不採用になる厳しい世界。しみずさんの手元に残るこれらは、世に出なかったもの。また、途中で不採用になった際の代理原稿というものも存在し、自身の作品がそれにあたる場合もある。

 
雑誌に掲載されないと収入に結びつかないため、時間と手間はかかる一方で安定した収入に結びつけるのは厳しい世界ではありますが、それでもストーリーを考えるのは楽しく、また自身の作品が世に出て残ることが嬉しかったと言います。
 
専門学校の講師をしながら漫画家を続けていたある日、関わっていた少女漫画雑誌が廃刊になってしまいます。違う路線の漫画雑誌への転向を勧められましたが、悩んだ末に、漫画家としてはお休みすることを選びます。そしてプライベートではご家族のご病気や介護の必要性があったため、短い時間で制作できるイラストレーターとしてのお仕事を始めました。
 
「今でも、あの時もう少し頑張っていれば漫画家を続けられたかもしれないと思うことはあります。漫画家の夢が頭を過ることもありますが、現在のデジタル化に慣れるのも大変ですし、今は今の生活があります。イラストレーターのお仕事もやりがいと喜びがあるので、今の自分に納得しています」
 
ナルセノイエモデルハウスでの個展では、イラストだけでなく漫画家時代の原稿も展示しました。
「それまでは、見ないようにしてきた部分もありましたし、過去をマイナスに捉えているところがあったのですが、個展でこれまでの活動を棚卸することができました。そして過去作品にも『面白いね』と言ってくださる方々がいて、『私は頑張ってきたんだなぁ』と自分を認めることができました」と心の内を話してくださいました。

帆布かばん

透明感のあるイラストが印象的なしみずさんの作品。写真下左は似顔絵で、目の前の方を描くことも、写真や画像を基に描くこともある

 
現在は、教室をしながら、イラストレーターとして活躍されているしみずさんのもとには、様々な依頼が入ります。ご家族、ペット、結婚式のウエルカムボードや、思い出の景色、そして亡くなった方の遺影を、好きだったお洋服と残したいお顔の写真をお借りして描くこともあるのだそう。
 
「好きな花や色、キャラクターやお洋服、作風など、写真では表現しきれないものを一枚の絵で表現できるのが絵の良いところですね。例えば、結婚式のウェルカムボードの似顔絵の背景に、プロポーズの時のお花を描いたりもしました。」
 
ご依頼に対して、描く対象に関する要素を細やかにヒアリングするのもしみずさんらしさで、オリジナリティに繋がっています。そして出来上がったものへの喜びがダイレクトに伝わるのが、モチベーションになると言います。
 
しみずさんのイラスト作品は、インスタグラムで公開されていますのでぜひご覧ください。

▶ しみずりえ(@rie3751)  インスタグラム https://www.instagram.com/rie3751/


絵を通じて喜んでもらえる嬉しさ

帆布かばん

制作の様子を拝見したくて、ナルセノイエスタッフの金沢さんにモデルになってもらい、似顔絵を描いていただきました。

鉛筆で輪郭を描きこみ、顔のパーツを描いて着彩、最後に周りを彩り、所要時間はなんと10分未満。

帆布かばん

完成したイラストと共に

 
今回はまんがのキャラクターのように描いていただきました。
 
「まんがのキャラクターに寄せる時は、顎を細めに描きます。背景は彼女のイメージで、薄い水色と明るい紫を入れました」
 
と教えてくださるしみずさんに、
 
「イメージの色まで添えてくださったのがとても嬉しいです」と大喜びの金沢さん。
その様子を見て、「私も嬉しい」と喜ぶしみずさん。
 
しみずさんが幼少期から絵を描き続ける原動力が伝わる、嬉しい連鎖の瞬間でした。


誰かと一緒にできること

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ナルセノイエとの出会いは、「ほぼ毎日カフェ conoca 」をナルセノイエモデルハウスにて企画・運用されている藤原直子さんからのご紹介でした。そして、しみずさん初の個展をモデルハウスで開催させてもらい、絵画やイラストのほかに、漫画家としての作品や歴史、仕組みなどもご紹介いただいたことで、単に作品を鑑賞するだけでなく、多角的に楽しむことのできるものとなり、大成功を収めました。その後も、子ども縁日でのワークショップなどでご協力いただいているのですが、現在、新たな取り組みを藤原直子さんと一緒に進めておられるといいます。
 
「絵本をつくっています。藤原さんが考えたストーリーに私が絵を描いたもので、小さい年齢から見ていただけるような明快なものです。絵本を出すことははじめての経験ですが、お話をいただいて、面白そうと思い参画しました」
 
「誰かと一緒にやることは、自分ひとりではできないことができたり、はじめての世界を見ることができます。フットワーク軽く、多くのことに挑戦していきたいです」と話すしみずさんのお顔は、明るく輝いていました。
 
しみずさんのこれからが楽しみです。
(文・写真:松尾 絵美子)

帆布かばん

 
 
イラスト・まんが作家 しみず りえ
 
IG https://www.instagram.com/rie3751/
 
教室について※2025年5月現在
1時間/1回をベースに、週1回ペースで月に3回実施で
おひとり 3,000円/月 
曜日、時間は応相談

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