アクション100case.015
全6部屋の小さなホテル
『Micro Hotel ANGLE』
アクション100 case.015は、岡崎市にある、「Okazaki Micro Hotel ANGLE」さんをご紹介します。
移住した「岡崎」というまち
Okazaki Micro Hotel ANGLE(以下、アングル)は、東岡崎駅から徒歩15分ほどの「康生(こうせい)」と呼ばれるエリアにあります。康生エリアは、徳川家康が生まれた岡崎城の北東に位置し、東海道が通り、宿場町としてまた城下町として栄えて以降、500年続く商いと人々の暮らしが根付くまち。長く続く個人商店が多く、歴史的建造物や史跡がところどころに見られ、古くからの人々の息遣いを感じます。そのまちの一角にあるアングルは、昭和8年から営業していた岡崎で一番古いカメラ屋をリノベーションした宿泊施設で、宿名の「アングル」は、カメラ用語である「アングル=視点・角度」から名付けられました。地域の外から訪れた旅行者のハイアングルと、このまちに暮らす人々のローアングルが交わる場にしたいという想いが込められています。
オーナーの飯田圭さん(以下、飯田さん)は、山梨県笛吹市のご出身。東京の大学を卒業後、Uターンで山梨中央銀行に勤めながら、お休みの空き時間は空き家改修などの地域のクリエイティブな活動に参加されていました。社会人経験を重ねていく中で、企業の売上をあげるために、サービスや広報を考えたり、商品開発をしたりといったアイディアをサポートする仕事の必要性を実感するように。そのようなサポートを行政主体て行っている岡崎市の中小企業支援施設に魅力を感じて、転職と同時に移住したのが27歳の時でした。その中小企業支援施設に勤める中で、自身で事業を行うことにチャレンジしたいと思うようになります。
「知識だけで語ってしまうことに違和感を感じていました。自分で事業をつくらないと見えないこともありますしね。そうしたときに、山梨の地元に帰ることも考えました。地元の方が知り合いも多く、事業を始めるには何かと助かります。ですが、住んで日が浅い地域で新しいものを作っていくほうが、大変だけれど得るものがあるだろうと思いました。
そして、そう感じられるほどに、岡崎のまちに可能性を感じていました。歴史があり、100年規模で続く個人商店が残りつつも、ここ10年ほどで新しくできたコンセプチュアルなお店もある。行政が民間と連携した都市戦略も進められており、面白い動きとポテンシャルがあったのです。ただ一方で、岡崎のまちの魅力が市街や県外に伝わり切っていない、という印象もあり、県外からの移住者だからこその視点で力になれるのではという予感がありました。」
アングルオーナーを務める、合同会社シテン代表の飯田さん
県外から来た飯田さんは、“このまちにビジネスホテルはあるけど、訪れた人が町を知る滞在場所=宿がないこと”に気づきます。
このまちの日常には魅力的で豊かなものがたくさんあるのに、それを伝える場所が少ない。宿を拠点に滞在し、まち歩きをしてもらえたら、様々なこの地域の表情を知ってもらえる。『宿が地域を伝えるメディアになる』のではないか、そう考えた飯田さんはアングルづくりに動き始めます。
地域メディアとしての宿
アングル1Fのロビー。キッチン機能を備えており、カフェなどの出店も受け入れている。
アングルは「暮らしの感光(観光)」をコンセプトにしています。「感光」は、物質が光を受けて反応し、化学変化を起こすことを現した写真用語。アングルの滞在者がこのまちのいつもの暮らしを体験し、地元の人との出会いや交流を楽しむことが、ひとつの「観光」の形になっていく。アングルをきっかけに五感で地域の光を感じられるような「感光」=「暮らし感光」を目指しています。単に宿泊するだけでなく、訪れた人が岡崎のまちを様々な視点で感じられるよう、まち歩きイベントの開催や、まちをさまざまな視点で切り取ったマップを作成するなど、様々な仕掛けが施されているのが大きな特徴で、その地域を知るメディアの役割を担っています。
ミニマルなデザインの客室。個室で過ごしている時間も岡崎のことを感じられるよう、インテリアの多くは岡崎の事業者や職人によるもの。(写真提供:アングル)
内装やサイネージ、壁に飾られている写真や絵、キーホルダー等のグッズなど、飯田さんが岡崎で活動する中で出会った多くの方の協力があります。作家、デザイナー、職人等など、地域の仕事が集結する場所です。(写真提供:アングル)
岡崎のまちを眺める屋上には、仲間と語らう場があります。(写真提供:アングル)
アングルの町歩きMAP。写真左「夜に食べてほしい あの店のこのメニュー」、写真右「朝・昼に食べてほしい あの店のこのメニュー」は、スタッフが実際に食べて本当にお勧めしたい、という気持ちが伝わってくる。
MAPをつくるための取材が店との関係性をつくり、このMAPを見た訪問者が店を訪れると会話が広がるアイテム。
フィルムカメラの貸し出しプランも。
ファインダーを通して新しい発見があるかも。
木工作家による照明器具、ふんだんに使われた内装の木材も岡崎市産材の木材の廃材を使用。フォトグラファーが撮影した岡崎のまちの写真がデザインされたポストカードやTシャツなどのグッズも販売中。アーティストとの出会いとまちとの思い出を両方持ち帰ることができます。
暗室だった部屋にはサインを。カメラ屋であったこの地・建物に残る文脈を引き継いでいる。
アングルがオープンしたのは、コロナ禍の2020年。滞在する中での楽しさを創るだけでなく、観光地とは言い切れない地に足を運んでもらうための工夫もあります。ただの宿泊施設ではなく、「暮らしを感光する」というコンセプトを前面に出し、県外イベントでのブース展開や、SNSやWEBでの広報など、人の目に留まるための活動に力を入れています。
「『どんなまちかはまだ詳しくないけれど、面白い宿があるから行ってみよう』そういうきっかけになるように努めています。ありがたいことに興味を持ってくれた近隣県の方がリフレッシュのために滞在してくれたり、東海道の歴史や発酵文化に関心のある海外の方が、せっかく訪れるならコンセプチュアルな宿に泊まりたいと訪れたりしています。若い方からお子様を連れたご家族、大人の方同士の旅行など幅広くお越しいただいていますが、文化的な方が多いですね」と飯田さん。
ゲストの方との出会いも楽しいと言います。
市街地の次は里山エリアへ
アングルをオープンして5年。飯田さんは今、新しいプロジェクトに取り掛かっています。
「岡崎市は6割が中山間地域で、自然やその地域ならではのものを活かした一次産業・二次産業があり、市街地とは違う魅力があります。ここから車で30分ほど北東に向かった『神水(かんずい)エリア』に、 1830年から続く柴田酒造場という酒蔵があり、その9代目と私が同い年なのですが、話しているうちに何かやりたいね、と意気投合しました。その地域は、自然と酒蔵文化が深く結びついていて、歴史、水、水田といった豊かな資源があります。ですが、高齢化と過疎化が進み、手入れができない田畑が増え、仕事が減り、保育園が休園し、空き家が目立ちそれが荒れてきている状況です。このままでは地域そのものが失われてしまう危機感があり、アングルとは異なるコンセプトの宿泊施設をつくり、まずは外から足を運んでもらい、その地域を知ってもらうきっかけにしたいと考えています」
柴田酒造場とのプロジェクトは、一日一組一棟貸しの宿。「脈(MYAKU)」と名づけられたその宿は、かつて地域の情報源だった 簡易郵便局の建物をリノベーションしています。柴田酒造場までは徒歩30秒。地元の素材を使った上質な空間でゆっくりと過ごしてもらい、地域の食材や調理法を生かした食事を楽しみ、その地ならではのアクティビティも用意する。宿での時間を存分に味わうコンセプトで、町へ繰り出してもらうアングルとは異なるものです。
「このプロジェクトにも多くの地元の方の協力を得ています。ひとりではできないことも、集まればできることがあります。この宿を通じて里山地域の魅力に気づいてもらい、関係人口を増やしていきたいですね。最終的には、長く続いたお酒造りをこれからも健全に続けていける環境を残したいです」
と飯田さんは語ります。
写真:「脈」のインスタグラムより
一日一組一棟貸しの宿「脈」は2026年1月のオープンを予定しています。
「脈」について
■IG https://www.instagram.com/myaku.okazaki/
■プロジェクトや宿について等 https://camp-fire.jp/projects/861980/view
地域の暮らしを楽しくしたい
「市街地、中山間地域、それぞれに作り上げてきた歴史があり、生まれた個性があります。私の特性として、何もないところから生み出すよりも、あるものを繋げて広げる方が向いているので、地域にもとからあるおもしろさや価値を伝えて残していくきっかけをつくりたいです。
守るだけでなはなくて、まちの文脈を汲み取って新しいものに引き継がれていくと、時代に合わせながら守ることができると思うので、そのための力になれるよう活動をしていきたいです。
根本には、自分が住むまちや暮らしを楽しくしたいというのがあって、『あったらいいな』を繋げているだけですが」
と笑う飯田さんは、
これからも地域の魅力を見出し、ヒトとモノとコトを繋ぎ、多くに伝えるメディアとしての機能を担っていかれることでしょう。
ひとときの住人体験をするとみえてくるものがあります。それはまちの数だけ唯一無二の経験となり、発見があるはずです。観光ではない、日常を過ごす旅をしてみませんか。
Okazaki Micro Hotel ANGLE
〒444-0041 愛知県岡崎市籠田町21 センガイドウビル
名鉄「東岡崎駅」北口より徒歩約15分
TEL 0564-64-1825
WEB https://okazaki-angle.com/
IG https://www.instagram.com/microhotel.angle/